呪いで人は殺せるか? 問題編06
隣の娘、五百子が窓から去ったのち、両親とスケキヨはしばらく呆然とその場に立ちすくんで息さえ止めているふうであった。が、やがてスケキヨが先にハッと我に返っった。そして部屋の隅に置いていた大きな樽にもぐりこみ、蓋を閉めて中から鍵をかけた。「あ、スケキヨ」と松子も我に返ってあえわててその樽に飛び付いた。高さ百七センチで入口の直径が八十八センチのウィスキー樽。もともとはインテリアとして居間に置いていたものを、いつの間にかスケキヨが自室に運んだものであった。樽の蓋には蝶番をつけて中から鍵を閉められるように改造が施されていた。「スケキヨ。出て来なさい」と松子は樽の蓋をバンバンと叩いて呼びかけた。樽の中からスケキヨのか細い声が聞こえた。「ああ、僕はもうおしまいだよ。儀式を中断してしまったのだから、五百子ちゃんはきっと僕を許さない。きっと僕を呪っている。僕はきっと、彼女に呪い殺されてしまうんだ」「いったい何を言っているの? あなた、隣の五百子ちゃんといったいどんな関係なの? 呪いって何なの?」と松子は真っ青な顔で樽をゆすった。「落ち着け、とりあえず落ち着け」と佐兵衛は血走った目で樽にしがみつく松子を無理に引っ張って一階に下ろした。その日はそのまま一晩過ぎたが、スケキヨはこれ以降、一日のほぼ大半を樽の中で過ごすようになった。逆に両親、特に松子はこれまでと打って変わって頻繁にスケキヨの部屋に立ち入るようになった。窓から隣家の娘が忍び込まないように目を光らせ、樽の外からスケキヨに話しかけるようになった。「ねえ、スケキヨ。これまで私が悪かったわ。もっとあなたに気をかけるから、どうか、樽から出てきて」松子は泣きながらそう話しかけた。