呪いで人は殺せるか? 02-06

 警部は興奮し真っ赤になって叫び続けた。「ああ。松子が犯人となると、いろいろ辻褄があってくる。スケキヨの樽を転がした行為、あれは偶然倒れたのではなく初めから転がすつもりだったのだ。スケキヨの遺体から力づくでヌイグルミを引き離した行為。それも五百子嫌いが高じてカッと頭に血が上り、つい強引にヌイグルミを引きはがし、床にたたきつけたのではない。これは凶器を遺体から引き離し、さらに床にぶつけることによって粉々に砕くのが目的であったのだ」「そうだ。そうに違いない。凶器の先はスケキヨの腹で溶けたであろうが、根の部分は残っただろう。だから床に叩きつけて壊したのだ」「ははあ、わかったぞ。そんなカラクリであったのか」そして最後に、「おおお」と雄たけびを上げた警部は机に手をついて立ち上がり、「よし。ここの支払いはワシに任せて置け」と怒鳴りレシートを持ってレジに走った。そして珈琲代を店員に渡したのち、急いでスケキヨの家へと駆け去っていった。何事が起ったのかとポカンと眺める他の客たちとともに名探偵もその背中を眺め、「まるで台風みたいな人だ」と苦笑した。そして警部の去った席にひとり残りの珈琲をゆっくり飲みながら、「でも、怪しいんだよな」とつぶやいた。塩のナイフをヌイグルミに仕込む、ここまではいいとして、果たしてそんな仕掛けが本当に成功するのだろうか? いくらヌイグルミを強く抱きしめたとしても、それで本当にナイフは腹に刺さるのだろうか。固めた塩、たとえば岩塩のようなものをやすりで磨けば先のとがった磨製石器くらいにはなるかも知れない。「でもちょっと、難しいねえ」と名探偵は窓から外を眺め、「やっぱり呪いなのかな」とつぶやいた。