呪いで人は殺せるか? 02-05
「つまりこういう流れになるな。犯人はスケキヨが風呂場に行ったその隙にヌイグルミを盗み出して、縫い目をほどき、あらかじめ作っておいた塩のナイフをその中に仕込んで、もう一度縫い直した」警部の言葉のあとを継いで名探偵は言った。「そう。犯人はナイフを仕込み、本当はすぐに部屋に戻すつもりであったのかも知れない。しかしスケキヨが先に気付いてしまって一時は大騒ぎになった」「スケキヨが探し回ってもヌイグルミは見つからなかったが、それはどうしてだ?」警部は首を傾げた。名探偵は首を左右に振り、「それは重要じゃありませんよ。警察がその気で探せばヌイグルミの隠し場所くらいすうにわかるでしょう」と言ったあと、「しかし、そののち犯人はうまくヌイグルミをもとに戻すことに成功した。スケキヨはまた大人しくなり、そのヌイグルミを抱いて樽の中に入った」と続けた。「そして真夜中、彼は樽の中でそのヌイグルミを強く抱きしめて、そのはずみで仕込まれたナイフが腹に刺さった」警部は自分でそう言ってハッとした。「ああ、そうなのか? それが真相なのか?」名探偵が黙っているので警部は一人で推理を続けていった。「スケキヨの悲鳴に驚き、階下の三人は揃って部屋に飛び込んだ。そして慌てて蓋をあけようとしたが開かない」「失敗して樽を転がしてしまうような大惨事になったが、さて、これも犯人の思惑かもしれない」「そうか。腹に刺さったナイフをさらに食い込ませるために、樽を転がしたのか?」「傷は深くなり、出血の量は増える。おまけに蓋はなかなか開かない」「そうしてようやく開けられた時にはすでに出血多量であった」「そうなると犯人は?」警部はそこまで早口につぶやき目を光らせた。「松子だな」