アングラ劇『犬神ぢごく変』 06-01
第六幕
村長の屋敷。集まった村人たちの真ん中に胡坐をかいて座り、火傷や傷跡を見せるトンペイ兄弟。苦り切った表情で村人を見回す村長。そうした相手の弱腰を見て、ますますいきり立つ二人。
東一「まったくありゃ狂気としか言いようがありませんぜ」
平吉「オレたち命からがら逃げてきたから良かったけれど、もしあのまま古寺にいたら本当の地獄に送られるところでしたぜ」
東一「あの絵師め。オレを血の池に放り込んだり火あぶりにしたり」
平吉「ニワトリの群れに襲われて嘴でつつかれる恐怖。あんた、わかるかい?」
東一「さらに針の山にも放り込まれた」
平吉「柄杓で熱湯をかけながら追いかけてくる獄卒の恐ろしさ。あんた、わかるかい?」
東一「それを絵師の奴め。ニヤニヤ笑いながら眺めて、せっせと筆で描きとっていやがるんだ」
平吉「そうそう。まったく嬉しそうに描きとっていやがった」
東一「おお、そうだ。その時のアイツの影は狐であった」
平吉「オレたちをあれこれ責めたてて笑うアイツはまったく人間以外の何物かであったよ」
村長「おお、おお。あんたらほんに。恐ろしい目に合いなすったんじゃのう?」