呪いで人は殺せるか? 02-04
名探偵はそこで話をいったん区切り、珈琲を一口飲んでから、「さてではその塩のナイフはどこに仕掛けられていたのか、今度はそれが問題となりますね」と顔を上げて言った。警部が、「うむ」と頷くと名探偵は、「では、警部。思い出してください。被害者の死んだ時その場にあったもの。それは何ですか?」と問いかけた。警部は少し首を傾げ、「そりゃ、樽だろう? あのウィスキーの巨大な樽」と答えた。「ああ。あれはパンチョン樽というらしいですよ。アメリカでとれるホワイトオークの柾目板だけを使用して作るのが特徴だということです」と名探偵は樽のうんちくを述べたのち、「でも違います」と首を横に振り、「もっと別のものもあったでしょう?」と問いかけた。警部はしばらく渋い顔をしていたが、「ああ」と明るい顔になり、「わかった。ヌイグルミだ。五百子の顔をしたヌイグルミがあった」と答えた。名探偵は手をパチパチと叩き、「そうです。ヌイグルミ。血まみれのヌイグルミがあったでしょう? 塩のナイフはそのヌイグルミの中に仕込まれていたのです」と言ってから、「ね? 警部、忘れてないでしょう? その前日、ヌイグルミが紛失してスケキヨが暴れまわった、そんな小さな事件があったことを」と警部の顔を覗き込んだ。「ああ、たしかに。スケキヨがシャワーに行っている間にヌイグルミは紛失し、翌日には何もなかったように現れた、と」「塩のナイフはその紛失している時に仕込まれたのですよ」名探偵は人差し指をで警部を指差し、警部は、「ああ、なるほど」と手を打った。「これはやはり内部の者にしかできない犯行であるな?」「そうです。犯人はスケキヨのシャワーの時間までわかる、そんな身近な人間です」