十三番目の殺人 迷走編05
「では話を続けます」と警部は気を取り直して言った。「どうぞ」と名探偵は、容疑者たちに怒鳴られて少しへこんでいるためか、ソファーに深くうずくまったまま元気なく促した。警部はチラリと名探偵を見たが、そのまま再び手帳に目を落として言った。「先ほどの話でも分かる通り、事件の当日、玄宗和尚はお寺にひとりで寝ていた。そして朝が来たのでいつもの通り起きだして、禅室に入り座禅を組んだ。その際、お寺の門は近隣の修行仲間がいつ来てもいいように、大きく開いたんだろうな。いつもそうしていたようだ。そしてそこに、お前たち三人が来た。最初に到着したのは土浦さん、続いて円山さん、そして最後に名取さん。この順番で良いな?」容疑者の三人は黙ってコクリと頷いた。それを見たあと、「第一発見者は土浦さんとなるのだが」と警部が言いかけると、「そんな順番、意味がないので飛ばしてもいいんじゃないですか?」と名探偵が手を左右に振って眠そうに言った。「どうしてだ?」警部は名探偵の無礼に少し怒って尋ねた。「だって、そうでしょう? 犯人が誰であっても、和尚を殺した後立ち去って、もう一度門をくぐれば、好きな順番で到着できますよ。もちろん殺してそのまま第一発見者となるという方法もありますがね?」名探偵の言葉に警部はさらにムッとして、「そんなことを言っちゃ身も蓋もないじゃないか」とつぶやいたが、エヘンと咳払いをして気を取り直し、「では、到着順については良しとしよう」と再び続けた。「犯人はどうやら最初から和尚を殺すつもりだったようだ。その証拠に和尚殺害時、犯人は手袋をはめていた。凶器である香炉に指紋がないのはそのためだ」警部はこれに間違いあるまいと勝ち誇ったように言った。