十三番目の殺人 迷走編04

 ああ、土浦はひょっとするとすると玄宗和尚からお金を借りていたのかも知れない。警部はそう考えたが、「いや。ではその話はとりあえず置いておこう」と話を続けた。「和尚は五十になったばかりでそれほど年をとっているというわけではなかったが、まあ、早いうちに後継者を決めたいと思ったのであろう。京都の本山で修行をしている若い僧に誘いの手紙を出している」それを聞いて今度は名取がソファーから立ちあがって言った。「警部、それは間違いです。このお寺は私が継ぐと決まっています。もう三年も前から決まっています。和尚さんともそう話していたのです。そんな、京都からわざわざ若い僧を呼ぶなんて、そんな馬鹿な話はありませんよ」またしても言葉をさえぎられ警部は少しムッとして言った。「しかし現にだな。玄宗和尚からの手紙が証拠物件として京都の若い僧より提出されている」二人はそのまま睨み合ったが、これでは少しも話が進まない。名探偵は二人の間に割って入り、「まあまあ、お二人ともそう熱くならないで」となだめた。そして、「でもしかし警部のお陰で、三人のうち誰が犯人であったとしてもその動機らしきものが見えてきましたね?」と言ったあと、「円山さんは恋愛問題、土浦さんは金銭問題、名取さんは継承問題」とポロリともらした。途端、三人の容疑者は一斉に立ち上がり、今度は名探偵に対して声を揃えて怒鳴りかかった。「和尚さんはそんな人じゃないと言っているだろう」「キミは今まで何をきいていたんだ?」「お前、本当に名探偵か?」名探偵はひゃっと首をすくめソファーに深く沈み込み、「はいはい、まあこれはこれ。動機の話はもう良しとしておきましょう」とつぶやいた。