十三番目の殺人 問題編05

 警部と容疑者の三人は、それぞれポーズをとって考え込んだ。名探偵は近くのソファーに座りその様子を眺めていたが、やがておもむろに立ち上がって言った。「さあ、これだけ考えてわからないのなら、このダイイングメッセージは皆さんにはまるで無効であったというわけですね」名探偵の口調は、まるで落ちこぼれの生徒を切り捨てる塾の講師のような冷たさが感じられた。「ヒントを、もう少しヒントをくれ」と土浦がすがりつくように言った。名探偵は土浦の方を振りむいて、「だから中学に通ったなら解けるはずと言ったでしょう? 小学生では無理かも知れない」と言ったあと、「あとローマ字の表記はヘボン式ですよ、ヘボン式」と、もう一度繰り返した。「ヘボン式?」「ヘボン式でないものと何が違うのだ?」円山と名取が顔を見合わせた。「さあ、いろいろルールがあったようだけれど」と土浦も首を傾げ、「たしかヘボン式では繰り返す語や伸ばす語は一語で済ませるという法則があったような」と古い記憶をたどるように言った。「ご名答」と名探偵は軽く拍手をし、「『OO』と列なる語や『OU』と表現する語は『O』の一文字で書き表す、そんなルールがありましたね」と言った。「ああ、そうだったかも」と警部は紙を取り出して、玄宗和尚の名前をヘボン式ローマ字で、『GENSO』と書いた。「和尚は生前、かなり洒落のきいた人でしたよね」と名探偵は再びソファーに深く腰掛け、手元にあった月間雑誌『現代化学』をパラパラとめくりながら言った。「それがどうしたというのだ?」と警部が尋ねた。名探偵は警部には答えず、「それより皆さん。皆さんはのあだ名の由来、教えてもらえませんか?」と三人に声をかけた。