呪いで人は殺せるか? 02-03
それがどんな小説かというと、いや、小説の筋などどうでもよくて、とにかくそこで使われた凶器、これが秀逸、なんと氷の剣なんですよ。氷の剣を凶器として使用して、使用後はトルコ風呂に放り込んでしまう。氷は溶けて凶器は消える。ね、なかなかいいじゃないですか。ボクも最初はこれに倣い、犯人は氷の剣を凶器として使用したと考えてみたんです。犯人は何らかの方法でその氷の剣を樽の内側に仕掛けたのではなかろうか、と。しかし、そうするとどうもおかしい。被害者が二階で悲鳴をあげたのは夜中の二時ごろ、その時、残りの三人は一階で寝ていました。夕食時以降、誰も二階に上がっていないので、もし容疑者が氷の剣をどこかに仕掛けていたとしても、氷はきっともう溶解していたでしょう。スケキヨ以外の人間が二階に上がってから、もう七時間ほども過ぎていたのです。氷の剣は役に立たないのです。名探偵はそこで一息ついたあと、「しかし、凶器はやはり、この氷の剣のようなものではないかとボクは考えました」と言った。「それはどういったものだ?」と警部は尋ねた。名探偵は頷いて、「溶ける凶器、あるいは崩れ去る凶器」と言い、「そこで思い出して欲しいんです。被害者の部屋はやけにざらついていましたね」と警部に笑いかけた。「ああ」と警部は叫んだ。「では、あの塩が凶器だったのか?」名探偵はニヤリと笑い、「そう、塩のナイフですよ。あの塩はお清めの塩でも盛塩でもなく、凶器だったのですよ」と言ったあと「スケキヨの血を調べて見ればわかります。きっとすごく塩分濃度が高いはずです。塩のナイフはスケキヨの腹の中で溶けたのです。そして溶け残った分は小さな粉となって、部屋に散ったのです」と目を細めた。