十三番目の殺人 解答編04

「そののちローマではカエサル(ジュリアス・シーザー)が現れてシーザー暗号を使うようになりました。これはカエサルが考えたシステムで文字列をずらして文章を書くという方法です。理屈を知らないものには、その文字列はまるで出鱈目にしか見えないけれど、その暗号鍵(何文字ずらしているか)がわかれば読めるというものでした。このシーザー暗号はそののちヴィジュネル暗号というものに進化したり、エニグマという暗号生成器が作られたりすることで、より複雑化していくわけですが、逆にその読解技術も進化していきます。そしてその最も進化したものとして数年前にお目見えしたのが量子コンピューターです。量子コンピューターを説明するため、まずコンピューターについて簡単に説明すると、あれはオンとオフ、それの組み合わせによってさまざまな物事を処理する、いわば二進法の巨大計算機です。まったく簡略化した説明ですが、そういうものです。これが量子コンピューターとなるとオンとオフのほかにオンでもありオフでもある、という全く奇妙な状態を使えるようになりました。コンピューターのオンオフの組み合わせをビットと言いますが、量子コンピューターのこのオンでもありオフでもある状態はキュビットと言います。量子コンピューターはこのキュビットの性質を存分に活用して暗号解読をするのです。スーパーコンピューターで三年かかる暗号の解読も量子コンピューターなら一秒でできてしまうというわけです。おや? なんだか話がそれてきたようです。さて、どこまで話しましたっけ?」名探偵は警部の方を見て少し首を傾げた。「暗号の解説はもういい。それで犯人は誰なんだ」と警部は口をへの字に曲げた。名探偵は思い出し、再び話しだした。