十三番目の殺人 迷走編03

「和尚は一人暮らしであった。昔はいざ知らず現在は何宗の僧侶であってもたいてい妻帯は認められているのであるが、玄宗和尚は若くして妻を亡くし、それ以来ずっと一人暮らしを続けている」と警部が手帳を見ながら言った。名探偵は頷いて、「では、お寺にひとりで住んでいたわけですね?」と確認した。今度は警部が頷いて、「ああ、そうだ。ひとりで暮らしていた」と答えた。そこに土浦が口をはさんだ。「でも、女っ気がなかったわけでもなさそうだぜ? オレたちと同じ座禅仲間にお駒ちゃんというちょっと可愛い娘っこがいてよ。和尚はちょいちょい悪戯をしていたんじゃないか?」それを受けて名取がニヤリと笑った。「ああ、そうか。そうかも知れない。じゃあお駒が楊貴妃かも知れないな? 玄宗皇帝と楊貴妃だ。この事件、やっぱり中国史が関係あるんじゃないか?」それを聞いていた円山がドンと机を叩いた。「バカ言うな。和尚はそんな嫌らしい真似はしねえ。お駒ちゃんもそんなことされた覚えはないと言っている」激する円山を土浦はまあまあとなだめ、「そうだ、そうだ。一円さんはお駒ちゃんにホの字だもんな。いけねえ。いけねえ。からかって悪かった」と軽く謝った。「話がずいぶん脱線したようだ。戻させてもらうよ」警部はエヘンエヘンと咳ばらいをして再び話を続けた。「和尚は金回りが良かった。なんでも遠い親戚の遺産を相続し、その相続した金をこっそり人に貸して利息を取っていたようだ」再びドンと机を叩く音がした。見ると今度は土浦であった。彼は青い顔をして警部を睨みつけて言った。「和尚さんはそんな悪徳金融業者のような真似はしねえ。あれほど清廉潔白な人はいない。和尚さんを侮辱しちゃいけないよ」