呪いで人は殺せるか? 問題編03

 名探偵は、「ふーん」と軽く聞き流した後、「え? 山伏?」と驚いて尋ねた。警部は、「そうだ」と屈託なく答え、「スケキヨの家にはここ一か月ほど山伏が居候しておるのだよ」と何でもないような口調で言った。「山伏が居候? そっちのほうが怪しいのではないですか?」と名探偵は顎に手を当てて尋ねた。「いや、怪しくない。とワシは見ている」警部はそう言って目をつむり、「ワシは警察の仕事のかたわら駅前の路上で人相見もやっておる。人相見の師匠に習って免状もちゃんともらっておる。そのワシが見立てたところ、あの山伏の顔は善人の顔だ。だから怪しくない」と断言した。名探偵は訝しげな目で警部を眺め、「ちなみに、その呪詛殺人の容疑者、小野五百子という方の人相は?」と尋ねた。警部はクワッと目を見開き、「ああ、よくぞ聞いてくれた」と叫んだあと、「あれぞ悪相。天下第一の悪女の顔だ」と宣言するように言った。名探偵は額に手を当てげんなりしたが、「そうだ」と何か思いついたようにポケットに手を入れ、小さな紙の包みを取り出して見せた。「何だそれは?」と警部は興味を持って覗き込んだ。「いや、少しですね」と名探偵はゴニョゴニョと言い淀み、「まあ、ちょっと舐めてみてくださいよ」と紙包みを開いて、中にある白い粉のようなものを警部の手のひらに落とした。警部は不思議そうな顔をしてそれを舐め、「ん、辛い」と言った。名探偵は今一度紙包みをたたんでポケットにしまい、「まあ、警部の人相見はいいとして、なぜスケキヨの家に山伏がいるのか、それを教えてください」と言った。「ああ、それは」と警部は天井を少し見上げ、「話すと少しながくなるが、まあ話さねばなるまいな」と言った。