呪いで人は殺せるか? 問題編04
「山伏がなぜスケキヨの家にいるのか。それを説明するためには、まず殺された当の本人であるスケキヨについて語らねばならるまい」警部はそう切り出してこんな話をした。被害者のスケキヨは引きこもりのニートであった。十代後半、正確には十八歳の時に部屋からまったく出てこなくなり、二十三歳となった今もそのまま部屋で暮らしていた。両親と口をきくこともなく、部屋の中がどうなっているのか、家族でさえも知らないといった、そんな状態がずっと続いていた。食事は三度とも母親が彼の部屋の前まで持って行き、スケキヨは母の気配が消えてから、そっと戸を開けて食事を部屋に持ち込んで食べた。そして空になった食器をまた廊下に戻しておくと、いつの間にか母が片付けるといった、そんなふうであった。トイレや風呂なども両親のいない隙を見計らい、スケキヨはそっと行っていた。両親はそんな一人息子の挙動にはじめのうちこそ悩んだが、それでも別段、暴れるといったようなこともなく、いや、むしろまったく静かで、居るのか居ないかもわからないような状態であったので、いつしかまるで気にも留めないようになった。スケキヨの部屋が二階で両親の主な居住スペースが一階であったことも、お互いを無関心にさせる要因であったように思われる。そうして曲がりなりにも均衡を保って、三人家族はお互いまったく波風を立てずにそこそこ平和に暮らしていた。ところが前年の秋ごろよりそれが徐々に崩れていった。と言っても、スケキヨが一階に降りたわけでもなく、また両親が部屋に入ったわけでもない。ただ誰もいないはずのスケキヨの部屋からたびたびゴニョゴニョと話し声が聞こえるようになりだした、というのがその発端であった。