十三番目の殺人 迷走編02
名探偵にそう言われては仕方ない。警部はブツブツ言いながらも手帳を開いて事件の経緯を話し始めた。「玄宗和尚が殺されたのは二十日の未明、まあだいたい午前五時半から七時にかけてのことだった」名探偵はソファーに座り再び深く目を閉じて警部の言葉を聞いた。三人の容疑者も先ほどと同じソファーに腰かけ、警部の言葉を聞いた。警部は話し続けた。「和尚は毎朝、午前六時より三十分ほど座禅を組む習慣があった。その日も座禅を組むために、禅室に入った。いや、すでに禅室に入って座禅を組んでいたのかも知れない。そこは時間の幅があるからどちらとも解釈できる。まあ、我々はすでに座禅を組んでいたと見ているが。ともかく和尚はその禅室の中、鉄の香炉で頭を殴られて、殺されたのである」名探偵が口をはさんだ。「その香炉はもともと禅室にあったものですね?」警部は頷いた。「そうだ。座禅の時、和尚は時々お香を焚いていたようだ。そのための香炉であった。なんでも室町時代から使われていたという頑丈そうな香炉で、なるほど、あれで殴られればひとたまりもあるまい。その日、つまり殺された日、和尚はお香を焚いていなかった」「ありがとう、続けてください」名探偵に促され警部は再び話を戻した。「和尚が毎朝座禅を組むという習慣を知って、興味を持った近隣の人たちが時々禅室に来るようになったということだ。およそ三年ほど前からで多い時には十人ほど集まっていたようだ。今回の容疑者三人もそんな座禅修行の仲間であった」警部がチラリと容疑者たちの方を見た。「座禅を組むと頭がすっきりするからな」と土浦が言った。「なるほど」と名探偵は土浦の方を見て頷き、「では、続けてください」と再び警部に声をかけた。