アングラ劇『犬神ぢごく変』 02-02
伏姫「嫌でございます。お父様の絵は花鳥画が可愛らしくてようございます。鳥や獣を描かれれば、お父様の絵は天下一品。なのになぜ九相図のような怖ろしいものが描きたいとおっしゃられるのですか?」
申秀「美人も死ねば醜悪なもの。つべこべ言わずに和紙を切れ。それからすぐに墓に行き、死んだばかりの女の死体をひとつ掘り出してまいれ」
伏姫「そんな怖ろしいことできませぬ。お父様、どうか今一度お考えなおし下さいませ」
申秀「なんと憎い娘よ。お前が出来ぬというのなら。おい八房」
八房「ワオン」
申秀「お前が死体を掘り返してこの庭に咥えてこい」
伏姫「お父様、私の愛犬八房になんてことを命じるのです。八房、本気にしてはいけませんよ。お父様は今日はどうも様子がおかしいのですから」
申秀「おい八房、何をしておるか。さっさと行け、行けというのがわからんのか?」
八房「ワオン」
伏姫「ああ、八房。行ってはならぬというのに」
申秀「伏よ、泣くでない。芸術の前には人間界のあらゆる道徳は無視されてよいのだ。さあ八房め。どんな女を拾ってくるか楽しみじゃのう」
伏姫「そんな理屈、ありませぬ」
申秀「お前も絵を描けばいずれわかる時もある。おお、八房め。大きなものを咥えてきたな」