十三番目の殺人 迷走編01
警部と三人の容疑者は和尚のダイイングメッセージの意味を考えた。警部は檻の中の熊のようにグルグルと部屋を歩きながら。三人の容疑者はテーブルセットのソファーに座り、思い思いのポーズをとって。それぞれ考えていた。名探偵は容疑者たちと別のソファーに腰かけて、腕を組んで目をつむり、彼らが何かを見つ出すのをじっと待っていた。そうして五分ほど経った頃であろう。不意に名取が警部の方を振り向いて言った。「いや、待って下さいよ。容疑者なら我々の他にもいそうなものじゃないですか。なぜ我々三人だけが容疑者として選ばれたのですか?」名取の言葉にハッとして、他の二人も頷いた。「そうだ。そもそもなぜ我々だけが容疑者とされたのだ?」「そうだ、これはそもそも論だ。そもそも何故オレたちなのだ? もしかしたら犯人は他にいるかもしれない。警察はそう考えなかったのか?」三人は口々に騒ぎ、警部に詰め寄った。警部は三人に囲まれて後ずさりしながら、「さて、それは」と気弱げに何か言いかけた。それを名探偵は手で制して言った。「そうですね。そもそも何故、と物事の根本をもういちど見直すことは思考法としてとても大切なことですね。もし根本が違った上に推理を重ねていったとしても、それは砂上の楼閣になる可能性が高いですからね」三人は一斉に名探偵の方に向き直り、うんうんと何度も頷いた。「では警部、なぜこの三人、名取さん、土浦さん、円山さんが容疑者としてあがったのか、その経緯をお話しいただけないでしょうか?」警部は不服そうに名探偵を見た。「しかし、もう犯人が分かっているのでしょう? なぜ今さらそんな邪魔くさいことを」名探偵は首を横に振って言った。「お願いしますよ。皆が納得するためにも」