アングラ劇『犬神ぢごく変』 01-02
申秀「千年の昔か、三日の先か。絵師にとって必要なのはさてどちらだとお前は思う?」
村人「さてさて、これが商人なら先を読んで取引をしたいであろうから。商人なら狸を選ぶかのう?」
申秀「そうよのう。お前の理屈でいうなれば、絵師や職人は先を読むより蓄えられた技術や知識が必要であろうから千年の昔を知ることが良いのう」
村人「それじゃ狐がよかろうな」
申秀「よし、福徳稲荷にお参りする事といたそう。そなたもご一緒に、はい」
一同「払ひ給へ、清め給へ。偉大なる福徳の大神よ、この申秀を日本一の絵師にしたまへ」
福徳「こーん、こーん。あいわかった。そなたの願い、聞き届けてやろうぞよ。こーん」
申秀「おお、大神様の声が聞こえたぞ。よしさっそく帰って絵を描こう」
村人「そりゃ良かったのう。あんたは村の誇りじゃぞ。たんまり稼いで我らにも分けておくれよ」
申秀「ああ、もっともじゃ、もっともじゃ」
玉梓「ああ恨めしい」
村人「はて? 誰か何か言ったか?」
玉梓「ああ、恨めしいと言ったのじゃ」
村人「ひええ、あんたは誰じゃ?」
玉梓「誰でもよかろう。しかし福徳を選んだこと、あ奴はきっと後悔することになるぞ」