02-05 長崎新左衛門尉意見の事 付けたり阿新殿の事 02

「長崎殿の仰せは最もでありますが、少し視点を変えて見ますれば、武家が天下を治めてすでに百六十余年。威勢は全国に及び一門は多いに栄えましたが、それも皆、天皇ひとりを仰ぎ奉って忠勤にはげみ、百姓には善政を布いてきたからでしょう。今回、天皇の寵臣二人を捕え、天皇の尊敬する高僧を三人も流罪に処したことは、武家として悪行ではないでしょうか。その上さらに、天皇と親王を遠流に処するというのは少し行き過ぎではないでしょうか。天道は驕る者を憎むといいますし、天台座主である親王を捕えれば比叡山も黙ってはいないでしょう。神の怒りにふれ、人心が去ったなら、幕府の命運も危ういものとなりましょう。『君君たらずといへども、臣以て臣たらずんばあるべからず』と昔の人は言いました。君主がいくら駄目な人間でも、臣下の者は臣下の道を外れてはいけないのです。後醍醐帝のご謀反は、帝が一人思っていても我々幕府が目を光らせていれば加わる者もいますまい。武家に勢いがあり、その上で天皇の命によく従えば後醍醐帝も謀反のことなどお忘れになることでしょう。これこそ天下泰平・武運長久の道であろうと私は思いますが、皆さまはどうですか?」二階堂道蘊が一同を見回すと、他の者が口を開く前に再び長崎高資が怒りをあらわにして言った。