そして誰も猫になった001

 と、ある無人島に行くと、大きな古びた洋館がひとつ海辺にポツンと立っていて、そこに十匹の猫だけがいた。猫たちは海で魚を取って食べ、バケツにたまった雨水を飲んで、至極呑気に暮らしていた。洋館に入ると大きなダイニングテーブルがあり、壁の食器棚には十組の綺麗な食器類が整然と並べてあった。つい最近まで人が住んでいたようで、埃はほとんど積もっていなかった。私は食器棚のガラスの扉を少し開け、中から一枚の皿を取り出した。そしてそれをテーブルの上に置いた。コーヒーカップとソーサーも出して、その横に置いた。もう一枚、別の皿を取り出して置いた。さらにもう一枚、置いた。この皿にはパンが乗っていたのであろう。こちらの皿にはサラダ、そしてこちらにはメインディッシュのステーキが。ああ、スープ皿も置かなくちゃ。そしてナイフとフォークを横に並べて。私は空の皿をテーブルに置き、その前の椅子に座った。すると一匹の猫が、それは自分の席である、というように椅子の下でニャアニャアと鳴いて、私の膝の上に飛び乗った。そして軽く足踏みをしたかと思うとそのまま丸まってしまった。猫が膝の上で落ち着いたので、私は動けなくなった。寝ている猫をのけるは可哀想であるし、幸い私には、とりわけて急ぐ用事もない。猫の背をなでながらボンヤリとあたりを見回した。壁に掛けられた大きな額。そこに描かれたメソポタミアの文様。翼の生えた女に蛇の顔をした男。洗濯板のような髭の男に目ばかり大きい男。鳥の顔の人に獅子を踏みつける男、スキンヘッドの男にリラを弾く女。魚を下げる男にグラスを傾ける男。十人のシュメル人。あの中の誰かが私であるとするなら、私は差し詰めグラスを傾ける男であろう。