01魔界研究部 04

「こっち、こっち」と、沙羅は多聞の手を引いて校庭を斜めに横切って、部室棟へと入っていった。そして奥の階段をのぼり、最上階の四階の、大きな鉄扉の前に立ち、「ここが私たちの秘密基地」と、さも得意げに笑ったけれど、多聞は頑丈そうなその扉を見上げ、「西洋の古い監獄みたい」と、情けなさそうに眉を落とした。薄暗い廊下には裸電球がぶら下がり、それに照らされた怪しげなる看板には、『魔界研究部』と、恐ろしい字面が揺れている。「ここ、お化け屋敷?」多聞は思わず尋ねた。しかし沙羅はそれには返事もしないで、ニコニコと笑いながら、「多聞君、帰宅部でしょ? 部活に入らなきゃ」と、この部に入るのが当然である、というように、多聞の背中をポンと叩いて、それから扉をギィと開けた。鉄のきしむ鈍い音に多聞は思わず目をつむった。あな恐ろしや、この扉の向こうには魔界の住人がいるに違いない。しかし、しばらく待っていても、不思議に何も起こらない。そっと細目を開けてみると、なんとそこには、この怪しげな部活に似つかわしからぬ、爽やかそうな部員たちがこちらを向いて座っていた。部員たちの後ろの壁には本棚が並び、部室は妙に細長かった。恐る恐る足を踏み込むと、部室の最も奥に座る人物が、「君は誰?」と尋ねた。沙羅は嬉しそうに手を挙げて、「新入部員です」と多聞の代わりに答えた。そして多聞に、「あちらは部長の揖保神先輩」と紹介してから口を耳元に近づけて、「部長って見た目けっこう妖怪っぽいでしょ」と囁きクスクスと笑った。痩せ型長髪眼鏡の部長。爽やかな面々のなか、確かにあの人だけは妖怪っぽい。そんなことを思いながら、多聞はペコリと頭を下げた。