01魔界研究部 03

 多聞と沙羅は若宮高校の一年生。入学式に満開だった桜の花はもうすっかり葉桜だけれど、校庭の、この緑の並木道をしゃべりながら二人並んで歩いていて楽しくなかろうはずがない。晴れわたる空に白い雲、前途に広がるは素敵なバラ色スクールライフ。嗚呼、なんて幸せな多聞君。の、はずなのだけれど、どうも会話の内容は魔界ばかりで変なのである。「ねえねえ、魔界って結界の向こう側の世界なのよ」「結界の向こう側?」「そう結界の向こう側。それを越えると途端に世界の常識が変わるの。面白いと思わない?」沙羅は嬉々として語る。多聞はしげしげと沙羅を見る。この子はとても綺麗だけれど、頭の中は少し腐ってる? 「ねえ、聞いてる?」と、沙羅はまだ会ったばかりだというのにすごく多聞に馴れ馴れしい。まるで旧来の友達、それも男同士か女同士であるように、まるで性差の意識もなく親し気に話しかけてきて、時には背中をバンバンと叩く。貴布禰沙羅十五歳、見た目と内面のギャップが激しすぎ? 外面如菩薩内心如夜叉? いやいや、外面如菩薩はいいけれど内面は夜叉じゃないな。夜叉じゃなくて、魔界にとりつかれた少しイタい子? そんな感じかな。多聞はそんなことを考える。沙羅は相変わらず「魔界、魔界」と話している。多聞は再び沙羅を見て、今度は思わずニヤついてしまう。たしかに彼女、思考は魔界に取り憑かれて、ちょっとイタいかもしれないけれど、この玉のカンバセの麗しさはどうだ。貴布禰沙羅、彼女は天女に違いない。そう、彼女は天女だから思考もボクたち凡人とはまったく違って当たり前なのだ。そう思い至り、頷いた。