01魔界研究部 02
「私の名前は貴布禰沙羅。あなたは?」と綺麗な彼女の唇が動き、「ボクは唐猫多聞」と答える。「唐猫君って珍しい苗字ね? どこの中学校から来たの?」食堂の隅の窓際に並んで座ると、彼女は買ってきた紅茶の蓋を開けながら聞いてくる。多聞は「宮浦中だけど」と答えて「貴布禰さんは?」と聞き返す。何せ名前が多聞なのだから聞くのはこっちの専売特許なのだ。沙羅はニコリと微笑んで、「私は宮前中出身。あんまり友達いないんだ。多聞君、仲良くしてね」なんて微笑む。多聞は思わず、「ボクでいいの?」と少し気弱に思ったけれど、ここは一発、男は度胸、「ああ、こちらこそ」などと少し気取って返事をする。それから少し声を潜めて、「で、さっき魔界がどうのって言っていたけれど、あれって何の話?」と恐る恐る聞いてみる。いくら沙羅の微笑みに感覚が麻痺した多聞でも、持って生まれた臆病心はなかなか消えるものではない。もし「魔界」が聞き間違いで、「愉快」とかだったらどんなにいいか、などと思う。いや、流石に愉快は変か。そんなことを考えていると、「ああ」と沙羅は軽く頷き、「ねえ、多聞君。一緒に魔界を探検しない?」と、やっぱり「魔界」は「魔界」のようだ。多聞が逡巡していると、「ねえ、多聞君、私と一緒に探検しようよ?」と沙羅はもう一度言いなおし、可愛く小首を傾げる。嗚呼、もうダメだ。ボクに断る理由はない。何故ならボクは男の子で彼女はとても綺麗なのだから。多聞はダンッと席を立ち、強くコブシを握りしめた。「もちろん行くよ。ボクはキミと一緒ならたとえ火の中、水の中。魔界なんてへっちゃらさ」