01魔界研究部 01

「魔界探検は好きですか?」と、いきなり聞いてくる人がいたら、それは危ない人かも知れない。関わらない方が無難だろうし、場合によっては交番に駆け込んだ方がいい。いくら綺麗な女の子であったとしても、ノコノコついて行かない方が天下泰平というものである。「魔界はこっちヨ」なんて手招きされて、ひょいと街角を曲がった途端、女の子の頭がぱっくり割れて、中からウジャウジャと蛇が出てきたら、君は一体どうするんだ。蛆虫が出てきたらどうするんだ。百足が出てきたらどうするんだ。そんな怖い目に合うくらいなら、いくら相手が綺麗な女の子でも「ゴメン」と言って諦めるほうが賢明というものなのである。普段の多聞なら、まずそう考えた。何せ石橋を叩いて渡る、いや、叩いて叩いて叩き壊しても渡らないほどに用心深くて臆病な多聞なのである。「魔界」なんて言葉を聞いただけで、いつもなら絶対に飛んで逃げたはずなのだ。転がって逃げたはずなのだ。ところが、その日は違った。あの怖がりで意気地なしの多聞が、「魔界」という恐ろしげな言葉に逃げもせず、いや、逃げないどころかフラフラとついて行ってしまったというのだから、これは前代未聞の出来事じゃあないか。まあ、それだけ彼女が綺麗だったということではあるが、しかし、あの稀代の弱虫多聞をして怖さを打ち負かさせてしまうほどの美貌とはいかなるものか、それを微細に観察すると、髪は長めのレイヤーカット、スッと通った鼻筋に、少し憂いを含んだ切れ長の瞳。眉は、初月の峨眉山に出づるがごとく、エクボは落星の天漢の水に流るるに似たり。とまれ、とにかくすごい美人なのだ。