そして誰も猫になった004

「少し小腹がすきましたね」とシェフが言うと、膝に乗っていたサバトラが心得たように床に降りた。シェフは立ち上がり、「何か作ってきましょう」と言ってキッチンへと消えた。「この時間の食事となると、ブランチというところかね」と私はウクレレとビショップに言った。「いけない。拙僧には戒律があり、口にしてはならぬモノがたくさんあるのです」不意にビショップが立ち上がった。膝の黒猫は転げ落ち、不服そうにニャアと鳴いた。ビショップは猫に構わず、奥のキッチンへと歩いて行った。「何だかせわしないお坊さんね」とウクレレは鼻で笑った。「君たちは知り合いなのかい?」と私は尋ねた。「いいえ。この島に来る途中、港で一緒になっただけ。何も知らないわ」とウクレレはワインを少し傾けた。赤いワインがユラリと揺れた。その時、窓がガラリと開いた。私とウクレレがそちらを見ると、「おや? 先客かね」と窓から厳つい男が顔を覗かせ、「オレが一番だと思っていたのに」とそのまま窓から中に入り、どかどかと音を立ててウクレレの横に座った。「窓から入って来るなんて。あなたは一体何者かしら」とウクレレは男を冷ややかに見て聞いた。男はフフンと鼻を鳴らし、「オレは刑事だ。ここでこれから犯罪が行われると聞いたもんでね」と私をチラリと見て言った。「刑事さん、私たちはあなたをなんとお呼びすればいいですか?」と私は丁寧に尋ねた。「そいつはフェイクだ」と声がした。見ると開いたままの窓の外に鳥の仮面をつけた男がいた。そして刑事と同じく窓から入ってきた。「バード」とそのフェイクと呼ばれた刑事は、苦々しそうに言った。バードは私の隣に座った。フェイクの膝にサビ猫、バードの膝にムギワラの猫が飛び乗った。