11 美濃囲い
美濃囲いで勝ったので、今日は美濃囲いの日だ。飛車を振ってから右側に城を築くという、振り飛車党おなじみの本格的な構えだ。その名は美濃の城の美しさにちなんでつけられたともいうし、美濃出身の棋士が得意にしていた囲いだからそうなったという説もある。どちらにせよ今日の山田君は美濃囲いで、飛車は四間に回った。美濃囲い、金銀の連携が美しく、横からの攻めに強い。ただし斜めから角と桂馬に攻められると、あっという間に頓死する可能性もある。敵が桂馬を手に入れたなら細心の注意が必要である。そんなわけで、今日の仮想敵国は市原課長で、課長を角と見立てた場合、平松君が桂馬なのであろう。一方、我が陣営に必要なのは金金銀の三枚であるが、小夜さん、美和さん、桃ちゃんの誰を金に誰を銀にするのが良かろうか。金は前方にも横にも後ろにも強いが斜め後ろには弱い。銀は斜めには強いが横には弱い。横に弱いということは、脇腹が弱いということだから、三人の脇腹をこそばして、いちばんこそばがる人を銀として横に置こう。山田君はそう考えて、まずは小夜さんに近づいてこそばして「きゃあ」と驚かれてしまった。美和さんにも後ろから近づいて横腹を両方からこそばしたら「エッチ」と言ってひっぱたかれてしまった。桃ちゃんにはすでに二人から情報が回っていたらしく、受付にそっと忍び寄っても「なんですか?」と気づかれて、なかなか脇腹を狙えない。これでは金銀が決められず美濃囲いが組めない。何としても桃ちゃんの脇腹をくすぐってやろうと付け狙ううち一日は終わった。今日も有意義な一日だったと、山田君は微笑んだ。