09 無人駅から電車に乗って

 最寄りの無人駅に行くと、カカトが「ここだよ」と大きく手を振った。ダボッとした白いオーバーオールは長めのスカートくらいの丈で、足元は裸足に黒のスニーカー。長袖のシャツはダーク系の単色で、肩からかけた茶色のポーチとのコントラストが、なかなか洒落ている。普段と違う大きく結ったお団子ヘアーも、なんとも可愛く見える。雪はオレンジ色のシャツにジーンズといった、いたくあっさりした服装だったので、もう少しお洒落をして来ればよかった、と少し後悔した。「制服以外で会うの初めてだね」と切符を買いながらカカトが言った。雪も改めてそれを実感した。制服の時よりカカトはカカトらしく、雪は雪らしい、そんな気がした。しばらくすると電車が来て、ワンマン電車の車掌さんが二人の切符にパチンと改札鋏をいれた。「この駅から乗るの私たちだけだね?」カカトは面白そうにクスクス笑いながら電車に乗って、雪も「そだね」と笑いながら電車に乗った。「あそこに座る?」とボックス席をカカトが指さし、ガラガラの電車の中、二人は向かい合って座った。「ねえ、どうする? 楽器屋に行った後、どこか行きたい店とかある?」カカトは嬉しそうに尋ねた。「本屋にちょっと寄りたいんだ」と雪は言った。「いいね、本屋さん。何か買いたい本とかあるの?」カカトに聞かれて「うん、ちょっとね」と雪は少し言いよどんだ。黒魔術の本が見てみたいなんて言ったらカカトはきっと変な顔をするだろう。この前は少し躊躇したけれど、やっぱり部活は黒魔術同好会がいいかな、と雪は改めて思っていた。だってやっぱり楽そうだし。