01 出航 1831-12_04

 ボクは船で生まれた。お母さんはやっぱり船の守り神で、優しいけれど勇敢な凛々しい猫だった。天気の予測が得意で、何度も船を嵐から守ったって言ってたっけ。ボクはそんなお母さんの船に生まれて、英国と印度を行ったり来たりしながら幸せな時を過ごしたんだ。海には魚や鳥がいたよ。大きな鯨にイルカの群れに、あれ、これはどちらも魚じゃないんだっけ? まあいいか。空を見上げればカモメにアホウドリ。いろんな奴がいるもんだと感心してみていたけれど、陸に上がればそれどころじゃなかったな。カエルにカマキリ、バッタにヘビ。いろんな顔の奴がいて本当にびっくりしてしまったよ。お母さんは知ったかぶりでそれらの生き物の名前や性質をよく教えてくれたけれど、元来が海の猫だから、本当のところ、あまりよく知っていなくって、半分以上があてずっぽうの出鱈目だったね。だから不注意にも虎を見て「彼は私たち猫の仲間だから大丈夫よニャア」なんて、不用心に近づいてガブッと食べられちゃったな。印度で虎に食べられちゃうなんて高丘親王じゃないんだからさ、ホント不注意すぎるよ。でもお母さんと過ごした二年間は本当に楽しかったよ。そのあと今度は港のおじさんたちに育てられたね。おじさんたちはお母さんと違って少々荒っぽかったけれど、でもその仕込みのお陰でボクはいっぱしの船乗り猫に育ったね。一年間を港で過ごし、今回いよいよ船乗り猫として船に乗せてもらって。さあ、これからという時に、ああ、もうダメだ。鉄パイプが降り下ろされて! ラリーはギュッと目をつむった。バシッと頭上で激しい炸裂音がした。