01 出航 1831-12_05

 ラリーがそっと目を開けると、鉄パイプは頭のすぐ上で止まっていた。「助かったんだニャア?」と、不思議に思ってもう少し顔を上げると、大男の船乗りが船の櫂で鉄パイプを受け止めてくれていた。トミーは鉄パイプを振り下ろしたままの格好でブルブル震えていた。大男の船乗り、アンドレイは櫂で鉄パイプをパンと弾き飛ばして言った。「この猫は俺たちの守り神なんだけど、お前はどうして殺そうとするんだ?」そしてまだ動けないでいるトミーの首根っこをつかみ軽々と持ち上げた。「海に棄てちまうか? それとも船長のところに連れて行くか?」アンドレイはトミーをユラユラと揺らしてから猫の顔を見た。「ようラリー。お前さんはどっちがいいと思う?」ラリーはニャアと一声鳴いて船長室へと歩き出した。「ということだ。ラリーに救われたな」アンドレイはグフフと笑いながらトミーを引きずってラリーの後ろについて歩いた。コンコンとノックをしてアンドレイが船長室に入ると、室内にはロイ船長とダーウィン博士がいた。「テネリフは危険だというのかい?」と博士が尋ねていた。「そうだ。あそこはいまコレラが蔓延しているということだ。今回の上陸は断念しようと思う」とロイ船長は答えていた。「会話中すみませんね」とアンドレイは入り口近くで声をかけた。二人はアンドレイと少年に気づき会話をやめた。「その子は?」とロイ船長は尋ねた。「密航者でさ」とアンドレイは言った。「港に巣くうコソ泥らしいがね。まあ、どう処分するか、船長が決めてくれよ」アンドレイはドンと少年を突き飛ばし、少年はゴロンと床に転がった。