09 四間飛車
四間飛車で勝った。なので今日は四間飛車の日だ。山田君は意気揚々と会社に行った。そして席について考えた。三間飛車の時は経理の席に行った。四間飛車だと、どのあたり? ああ、受付に違いない。山田君は狙いを定めキャスターを転がした。コロコロ。椅子ごと移動して「ヘイ、桃ちゃん。はうづうづう?」。受付の桃ちゃんは驚きもせず「あいんはいんさんきう」。なんてノリのいい受付だ、四間飛車は成功だ。さて次の手だ。道場ではここから角と銀を積極的に動かし、敵陣営に揺さぶりをかけたが、この場合、角と銀は何に当たるか。考えあぐねているところに「おはよう」と、経理の美和さんと事務の小夜さんが来た。そうか、君たちがボクの角銀か。よし、これから桃ちゃん攻略に君たちの力を借りるとしよう。山田君はほくそ笑んだ。「ねえ桃ちゃん。今から一緒にモーニングにいかない?」「今から? お仕事は?」「そんなもの、小夜さんと美和さんに任せておけば大丈夫。ねえ、一緒に行こうよ、いててて」横から美和さんが耳を引っ張った。小夜さんが腕をギュウッとつねった。「仕事は私たちに任せてって、どういうこと?」小夜さんと美和さんは笑っているが、声には怒気がこもっている。「いや、それは」と山田君、あわてて言い訳を考えた。小夜さんと美和さんはボクの角銀ではなく、桃ちゃんの手駒だったのか? と、その時美和さんが「行くなら四人でいかなくちゃ」と言った。「そうよね」と小夜さんも同意した。なんと君たちはやっぱりボクの手駒だったか。かくして山田君と三人の女子社員は仕事をすっぽかし、カフェに行ってしまった。