07 向飛車

 あまり得意ではないけれど向飛車をやってみた。辛うじて勝てたので今日は向飛車でいくことにした。向飛車とは、相手の飛車先に自分の飛車をぐるりと回して、何となくお互い頭突きをしあって、どちらが強いか比べるような、山田君的にはそんな、ちょっと力技的なイメージであった。本来は向かい合ったままジリジリと敵の様子をうかがって、少しでも隙を見つけたら、そこを一気にカウンターパンチ。それが向飛車の醍醐味だそうだが、しかし、そんなまどろっこしいことは山田君は苦手だった。山田君にとって向飛車はやっぱり力技だった。なので出勤した途端、事務職の小夜さんを見つけ出し、いきなりゴーンと頭突きをした。「いたーい」と小夜さんはひっくり返り、涙目で山田君を睨んだ。「朝から一体なにするのよ」しかし山田君は攻撃をやめない。元来が得意戦法でないので、いつもより心に余裕がないのだ。「小夜さん、ちょっと」と小夜さんの手を引いて非常階段に誘い出し、スカートの上から小夜さんのお尻をさわろうとする。「なにするのよ」とさすがに怒った小夜さんがピシャンと平手打ち。小夜さんの反撃が始まった。山田君はしどろもどろに「いや、これには深いわけが」とかなんとか言い訳をするが、もとより衝動的にしてしまったことなので言い訳などあろうはずがない。小夜さんの目はランランと怒りに燃え上がり、怖いけれどその目をとにかく見返さねばならないと山田君。これぞ向飛車、お互い飛車先でにらみ合って、カウンターを狙っている。いや、もうここまで来ては蛇に睨まれたカエル状態。詰まされるのを待つばかり。