04 相掛かり

 二宮君に相掛かりで勝ったので、今日は相掛かりで攻めることにした。相掛かりは出くわした二人が、お互いに飛車先の歩をつく相居飛車の形式でならねばならない。山田君は会社のエレベーターに乗って、さて、ボクの相掛かりを受けてくれるのは誰だろうと考えた。飛車先の歩に対し、振り飛車で逃げられては相掛かりにならない。相手の選定は慎重にしないと、と考えているところ、エレベーターのドアが開いて事務職の小夜さんが「おはよう」と言って入ってきた。おはよう? そうだ、この挨拶。この挨拶こそ天下の王道、飛車先の歩に違いない。山田君はにっこり笑った。「おはよう、小夜さん」これで二人の間に相居飛車の陣形が成り立った。あとは飛車先の歩をお互いに伸ばしていくだけだ。「いい天気だね」と山田君。「そうね」と小夜さん。一つ一つ歩を進めていき、さあ、いよいよお互いの駒がぶつかり合う。「それにしても小夜さんはなんて馬鹿なんだ」と突然怒り出す山田君。「え?」と驚いて目をパチクリする小夜さん。これじゃ相掛かりではなく言いがかりだね、山田君。しかし、さらに猛攻は続く。「だってそうじゃないか、昨日三人でバイキングに行った時、小夜さんは美和さんとばっかり話しててさ」のんびり者の小夜さんも、さすがにここで反撃に出る。「だって昨日は山田君が勝手に来たんじゃないの」たしかに急に割り込んだのはボクだった、と昨日のことを思い出す山田君。「ああ、たしかにそうだった」プウと膨れる小夜さんの手を握り、耳元でささやく。「小夜さん、ゴメンね。ボクが悪かった」小夜さんの頬がポッと少し赤らんだ。