03 三間飛車
今朝は木俣氏にノーマル三間飛車で勝った。少し地味な気もしたが、他の戦法が使えなかったので仕方ない、今日はノーマル三間飛車の日だ、と山田君は会社に向かった。自分の席に座って、さて、ではノーマル三間飛車で業務をこなそうと思ったが、三間飛車で仕事をするイメージは、どうもしっくりこない。業務はやっぱり居飛車でコツコツと積み上げていくのが本来で、三間飛車の軽いサバキは仕事には向いていない。飛車を三筋にスッと移動し、右手に美濃囲いを組み上げて。この際、敵の飛車先を角ひとつで支えるといったセンスもいい。山田君はそう考えて、デスクチェアーをスーッと横に三間すべらし、経理係の美和さんの席の向かいに来た。「あら、山田さん。どうなさったの?」と美和さんはヒマワリのように明るい笑顔で微笑みながらも、手はパソコンのキーボードを打ち続けている。彼女はは居飛車でコツコツと、軽薄な三間飛車を迎撃する準備を整えているのだろう。相手が守りを固めてしまっては軽さとセンスが武器の三間飛車に付け入る隙がなくなる。山田君は角を引き、三筋突破を目指すべく、銀をニョキニョキと伸ばす。「ねえ美和さん、今日のお昼、一緒にランチしない?」「あら駄目よ。お昼は小夜さんと一緒に隣のビルのバイキングを食べに行く約束してるんだから」山田君はパチンと指を鳴らして言った。「いいね、バイキング。それならボクも混ぜておくれよ、三人で楽しくランランランさ」何てったって軽さとセンスの三間飛車。「わかったわ」と美和さんが頷き山田君はほくそ笑む。しめしめ、これで美和さんもボクのもの。