01 邪教真言立川流 01-09
『賭け』と聞いて尊治親王はゴクリと生唾を飲んだ。近臣たちに話すと慰撫されるので黙っているが、実は親王、賭け事が三度の飯よりも好きなのだ。「してそれは、どういった趣向の賭け事なのだ?」少し声を潜めて資朝に尋ねた。「見ていただくのが一番なのですが」と資朝もひそひそ声となり親王の耳元で囁くように言った。「まあ簡単に言いますと、文観上人の周りには九人の巫女がおりまして、上人が護摩をたいて読経を始めると、その周りで淫らな踊りを踊るのですよ。やがて読経の声がやむと、髑髏の前に立った一人の巫女が着ている着物を捲し上げ、お尻の穴からポンと珠を飛ばすのですよ。で、その珠に何という文字が書いてあるのか、それを皆で当て合うというのが賭けなのですよ」尊治親王は目を丸くした。「巫女が尻から珠を出すのか? お尻が丸出しなのか?」資朝はかしこまって頷いた。「左様でございます」尊治親王は身を乗り出して尋ねた。「して、その珠に書かれている文字は?」資朝も身を乗り出して言った。「刃・戯・霊・痴・誅・辛・荒・底・哀。先ほどお話した荼枳尼の数珠の、いずれかの文字でございます」「ほほう。そうすると当たる確率は九分の一だな」「左様です」日野資朝が頷いた。尊治親王はゴクリと生唾を飲んだ。「よし髑髏寺に行こう。賭けにも興味があるが、何だかその隠微そうな雰囲気も気に入った。今日も儀式は開かれているか?」「文観上人は性欲絶倫で大真面目なお方、毎日やっておられますよ」資朝はいやらしい顔つきでニヤリと笑った。尊治親王はあえてしかめ面を作り「では参ろう」と席を立った。