01 邪教真言立川流 01-09
髑髏寺は伏見にあるので、尊治親王の住む嵯峨野あたりからは一刻以上もかかる。「牛車にお乗りになられますか?」日野資朝が尋ねると、「よいよい。このまま参ろう」と大きく手を振り、闊達に歩き始めた。「歩く方が健康に良いと日ごろから爺やも申しておる。それより知りたいことは、さて、その髑髏寺では毎日如何ほどの金銭が動いておるのかな? ということだ」歩きながら尊治親王が尋ねた。「さあ、しかとはわかりかねますが」資朝は顎に手を当ててしばらく考えているようだったが「まあ闘犬や闘鶏に勝るとも劣らぬほどの繁盛ぶりでございますよ」と自慢げに鼻をうごめかして言った。「一般の庶民も混じっていたりするのか?」尊治親王は不意に少し不安を感じた。自分はいずれ天皇となる身、花園天皇が即位する折、すでに皇太子にたてられている。「市井にてむやみに庶民と知り合うことは避けるように」と、爺やの吉田詮房をはじめ、近臣たちから固く戒められているのを思い出した。「市井の者は、まずおりませんよ。いるのは若い不良貴族たちか、淫蕩な有徳人か、あるいはまた助平な破戒僧といったところでしょう」資朝の言葉に親王は「なるほどのう?」と少し安心した。そこに追い打ちをかけるように、「さて、その彼らですが、まあ、どこでかき集めてくるのか、皆、銭はたんまりと持っていますよ」と付け加えた。護摩の紫煙のもうもうとたちこめる薄暗い本堂で、髑髏本尊の前に座って読経を上げるあやしげな僧。その周りを艶めかしく踊る九人の巫女に、賭けに飛び交う銭の音。「面白いのう」尊治親王はペロリ、舌なめづりをした。