04 舜見上人・鹿変化 03
翌朝、猟師が目を覚ますとやはり隣に鹿が寝ている。まるで人間のようにごうごうと鼾をかいて、足をつつくとくすぐったそうに引っ込める。猟師はとうとう我慢できなくなって、寝ている鹿を揺り起こし尋ねた。「鹿よ。ワシにはどういうわけか、そなたが舜見上人に見えて仕方ない。これでは到底射殺すことができぬ。ワシは如何にしたものか」鹿、答えて曰く「射殺せぬものなら射殺さぬが良い。己の直観を信じることじゃ」猟師、苦悶して曰く「しかしワシは鹿を射殺すのが生業じゃ。ああ、鹿よ。お前はなぜそんなに上人に似ているのだ」鹿、曰く「そりゃそうだ。ワシは舜見だからのう」驚く猟師の前、鹿は不意に二本足で立ち上がって、その皮をはらりと脱いだ。すると果たしてそこに立っているのは舜見上人。猟師、しばらくあっけにとられて見ていたが、突如怒りだして曰く「上人、なんと危ないことをなさるのだ。ワシが気づいたから良かったものの、もし気づかずに鹿と思って矢を射ていたら、上人の命は亡かったですぞ」上人、笑って曰く「それでそのほうが反省し、少しでも鹿を射るのをやめてくれるなら、ワシはそれで本望じゃったよ」「なんと、なんと。鹿のために上人は命までも投げ出されるのか」猟師はまったく驚いてしまって、以降すっかり鹿狩りに魅力を感じなくなった。「舜見上人は鹿をすくい、同時にワシも救ってくれた。あの方は立派なお坊さんだ」猟師はやがてそう思いいたって、「もう浮世では暮らしていけぬ」と、もとどりを切り落とし、上人の弟子となった。そして以降、仏法の修行に励んだという。とっぴんぱらりのぷ。