02 黄土色の悪漢 06

「中華そばなんて、そんなものでいいのかね」と師匠がブツブツ言いだしたのを機に桃之介は暇を告げた。「次は亜紀さんも連れて参ります」と丁寧に会釈をして道場を出て、増上寺の方へと歩いた。「境内から見る東京タワーが何とも良い風情である」と聞いていたので、少し寄ってみようと思ったのだ。芝公園を横切り、木々の少しこんもりと生い茂った道を歩く。と、不意に茂みの中からバラバラと黒い人影が現れた。ひーふうみい、数えると影は八つだった。「お前の鼻を潰さなくちゃ、どうも気が済まなくてね」と大きな影が言った。「なんだ。権藤さんとそのお仲間たちですね」桃之介は微笑した。目を凝らすと、黄土色の師範代が指揮をとって、桃之介を取り囲むよう手配している。さすがに八人一度にかかられては厄介だ。桃之介はくるりと踵を返して敵の居ない方向へと駈け出した。「まて」と山蛭たちは追った。桃之介は大通りを渡り、路地の中に逃げ込んだ。「あっちだ」「いや、こっちだ」と出遅れた敵は桃之介を見失い、それぞれ手分けして探し出した。「さて、ここが狙い目さ」と桃之介、逆に追っ手を待ち伏せて、一人ずつ順繰りに六人まで打ち倒した。「残るは二人、権藤と山蛭」と桃之介は路地裏から顔を出し、そっとあたりを伺った。不意にグイッと大きな手が桃之介の首根っこを捕まえた。「力じゃ俺にかなうめえよ」大男の権藤は桃之介をまるで猫の子のように持ち上げて「グフフ」と笑った。「それにしても間近で見ると本当に可愛い顔をしているのう。本当に男かどうか、ひとつ服でも脱がしてみるか?」権藤の目が妖しく光った。