02 黄土色の悪漢 03

「何をするかこのフタナリ野郎」と権藤は怒り狂った。盲滅法に拳を振り回し、もう武道の型も何もあったものではない。鼻血にまみれた顔を真っ赤に膨らませ、力自慢の猪武者の本性そのままに、桃之介に突進した。こうなったらもうこっちのもの、桃之介はニコリと微笑んで、ふわりふわりとまるで鳥の羽毛が風に舞うかのようにその拳の一つ一つをかわした。勢い余った権藤は、やがてドンと壁に激突してひっくり返った。桃之介は倒れた権藤のそばにより、ピンと指でその額を弾いた。と、どういった塩梅か、権藤はガクリと崩れ落ち、すっかり気を失ってしまった。門弟たちはあっけにとられた。「貴様」と山蛭毒大夫は怒鳴った。それから門弟たちのほうに向かって言った。「こんな道場破りに一人ずつかかることはない。皆で一斉に襲いかかり縛り上げてしまえ」門弟たちは「おう」と応えてそれぞれ得意の構えをし、じりじりと桃之介ににじり寄った。こう大勢に囲まれてはさすがの桃之介もただですみそうもない。師範代の山蛭にせめて一撃くらわせて、何とか隙を見て逃げようと算段した。そして桃之介が身構えた瞬間、「何をしておる」と道場の壁が奮えるほどの野太い声が響いた。「あっ」と門弟たちは振り返ると、道場の入り口に、髭面の師範、猿鳥イヌイが立っていた。「あ、あの。道場破りでございます」と師範代の山蛭は倒れた権藤を指し示し、それから桃之介を睨んだ。「ほう、道場破りか」猿鳥イヌイも倒れた権藤を一瞥し、それから桃之介を睨んだ。「猿鳥のお師匠様。おひさしゅうございます」と桃之介は悪びれもせず、ぺこりと会釈した。