01 桃色の美少年 10

「置いてやりゃいいじゃないかい」と奥から皴まみれの老婆が出てきた。「どうもその子はワケアリのようじゃないか。遠い親戚の子供を預かったって、近所に人には言っておくさ」老婆はそう言ってグフグホと笑った。「ありがとうございます」と桃之介は礼をいってそのまま崩れるように椅子の上で眠ってしまった。「奥に布団を敷いてやれ」と老婆は娘に言ったあと「ほれ、あんたはこの子を負ぶって布団に寝かしつけてやんな」と、会ったばかりの武闘家にも指示を出した。「へ、へえ」と気のいい武闘家は、まるで老婆の家人のように、言われるままに桃之介を抱き上げて、敷かれたばかりの布団に寝かせた。「変なことになったね?」と奥から出て二人になると、娘は武闘家に笑いかけた。「ほんとに」と髭面の武闘家は少し照れたように頭を掻いた。「私は雉野亜紀、キジノ薬局の跡取り娘よ。あなたは?」薬屋の娘が尋ねた。「お、俺は猿鳥イヌイ。旅の武闘家だ。今は明王山の不動の滝に打たれて修行している」髭面の武闘家は少し照れくさそうに、それでも威張って言った。「まあ」と娘は驚いてみせて、「じゃあ、時々は山から下りてキジノ薬局にも顔を見せてくださいな。桃之介君にも会いに来てやってくださいな」と笑いかけた。「も、もちろん」と髭面の武闘家は勢よく頷き、ゴホゴホとせき込み、そして翌日より武闘家は、毎日のように薬屋に顔を見せるようになった。桃之介はキジノの老婆から薬の処方を習い、イヌイから武術を習った。「私も何か教えてあげなくちゃ」とある日亜紀は、楽器屋で中古のアルトサックスを買ってきて、桃之介に手渡した。