01 桃色の美少年 09

 鎮守の森の社の下に寝ている女の子を拾ったのは、修行のためにひとり山にこもっていた武闘家の猿鳥イヌイという男だった。瀧に打たれて精神を鍛え、山小屋に帰る途中、ふと信心を起こしてお社にお参りにきたのが幸いであった。「こいつは酷い熱だ」と彼は少女の額に手を当て、急ぎ背中に負ぶった。町まで行けば医者くらいいるであろうと見当をつけて山を下りた。しかし町にはどうしたわけか病院らしい看板が見当たらない。小半時もグルグルとさまよったのち、ようやく見つけたのは一軒ちいさな薬屋であった。「まあ、薬屋でもなんとかなるさ」と彼は自分に言い聞かせ、ともかく店に入った。店の中には娘がいた。「どうなさいました?」と娘が尋ねた。「どうも風邪のようなんだ。酷く熱がある」髭面の武闘家は背負っていた少女を椅子に座らせた。薬屋の娘は少女の額に手を当てて「そうね。取りあえず頓服を飲ませましょう」と赤い包み紙を薬棚から取り出して、水を汲んできた。少女はその水で薬を飲み「ありがとうございます」とペコリ頭を下げた。「お前さん、どこの子だ? 家に送り届けてやるよ」と髭面の武闘家はできるだけ優し気な声で言った。少女は首を左右に振り言った。「ボクには家がないんです。ボクは桃之介。男の子です。たいしたことは出来ないかもしれないけれど、ボクをここに置いてくれませんか? なんでも手伝います。ボクをこのお店で働かせてください」まだ熱の冷めやまぬ、赤く火照った顔で桃之介は懇願した。薬屋の娘は目を丸くして、髭面の武闘家を見た。髭面の武闘家も少し困惑した表情で薬屋の娘を見返した。