01 桃色の美少年 08
「そんな可愛い顔をして、男のわけがあんめえよ」渕田は下卑た笑いを顔面いっぱいに浮かべ、桃の手を掴もうとした。路子はその渕田の足にしがみき、「おやめください」とか細い声で懇願した。「まだ邪魔だてするのか、このアマめ」。渕田は掴まれていない方の足で路子を蹴り上げて、その顔を踏みつけた。騒ぎを聞きつけて長屋の人たちが集まってきた。渕田は「ケッ」というような声をあげ路子を睨み付けていたが、突然ニヤリと笑った。「あんたもよく見ればいい女じゃないか。よし、今日はその小さいほうは勘弁しておいてやろう。代わりにお前が事務所にくるんだ」渕田は路子の長い髪をつかむようにして表に連れ出し、用意していた車に引きずり込んでどこへともなく去って行った。夕方、清之介はまるで狐につままれたような顔をして長屋に帰ってきたが、路子はそのまま帰ってこなかった。数日後に発見された溺死体が路子の変わり果てた姿であった。路子の死を見て、清之介の気が狂った。いつもニタニタと奇妙な笑いを浮かべ、外でゴミを拾ってきて食べるようになった。蛙や蛇を捕まえてきて、食べるようになった。そしてそれを桃にも食べるよう強要した。それを見かねたのは隣の部屋に住む夫婦だった。「これではあまりに桃ちゃんが可哀想じゃないか。あの子はまだ五歳だよ」そう言って、食べ物を与えて、できるだけ自分の部屋に桃をかくまうようにした。清之介はそれからしばらくして、舌をかみ切って死んだ。彼が残したのは呪いの言葉の綴られた一冊の日記のみであった。桃は日記を片手に長屋を出た。そしてそのまま何処にか、姿を消した。