01 桃色の美少年 07

 姉が死んでしばらくして、再び南田と渕田が来た。「お姉さんには気の毒なことでしたね」と渕田がそっくり返って言った。「話はずいぶん進んで、あと少しで会社も屋敷も取り返せる、というところまで来ているんですよ」と南田がニタリと笑い「ところでお宅には、あのお姉さんのほか、妹さんがおありでしたね」とチラリと桃の顔を見た。そして「うちの先生、年齢は問いませんので」と言ってグフフと笑った。「桃、いや桃之介は男だ」と父は青筋を立てた。「へえ、こんな可愛らしい顔をして、男の子なんですかね」渕田は太い首をひねって顎に手を当てた。「話があるなら私が聞きに行く。なぜ五歳の息子が出向かなければならないのですか。あなたの事務所は少しおかしい」清之介は布団から起き上がり、ふらついた身体を立て直して「着替えるから外にいなさい」と法律事務所の二人を外に出して背広に着替えた。「ではご案内しましょう」と南田はタクシーを呼んで清之介をその中に押し込んだ。そして自分もその横に滑り込むと急いでドアを閉めた。「お連れの方は乗らないのか?」と清之介はいぶかし気に尋ねた。タクシーを発進させながら南田は「いいんです、いいんです」とニヤついた。発車したタクシーを見送った後、渕田は再び長屋に入っていった。そして有無も言わさないまま、桃の手を掴んだ。母は驚いた。急いで渕田の腕に飛びかかり、桃を掴んだ手を思い切り噛んだ。渕田はギャっと叫んで手を放し、「このアマ」と怒鳴ったかと思うと握り拳で母の顔を殴った。母は倒れてぐったりとなった。渕田は倒れた路子に目もくれず、桃を見て笑った。