01 桃色の美少年 06
その長屋に鬼龍院法律事務所の南田健吾と渕田弾作が来た。「あなた方の悔しい気持ちはわかります。一度私たちの弁護士事務所にご相談にお越しください。うちの先生、鬼龍院蘭堂は企業裁判のエキスパートで、きっと損はさせませんよ」と南田がにたついた顔で言った。「費用は成功報酬でかまいません。うちの先生は弱い者の味方です」と渕田は大きな体でそっくり返って言った。清之介は倒産と引っ越しの心労でとても出かける元気がなかった。母の路子もその父の看病に疲れ、ぐったりうなだれていた。桃はまだ五歳そこそこで、とてもそのような使いが務まるわけもない。十六歳の姉、蓬が気丈に立ち上がった。「うちが行って話を聞いてくるよ」もともと少し男勝りの元気な姉であった。父母が止めようとするのも聞かず、南田と渕田に連れられてタクシーに乗り、鬼龍院の事務所に連れていかれた。そして一週間後、姉はまるで放心したような態で長屋の隅に座っているのが発見された。姉が鬼龍院の事務所に行ったまま帰らないのを、父母とも心配していないわけがない。何度も警察に連絡し、自分たちも名刺を頼りに事務所に出向いた。しかし、警察は鬼龍院先生なら大丈夫と言い、長屋暮らしの家族の言い分など聞きもしなかったし、名刺の住所に出向くと強面で屈強な警備員が、帰れ帰れ、と追い返した。そうするうち一週間が経ったのだ。放心状態の姉に両親が「犬に噛まれたものと思って」と話していたのを五歳の桃は少しだけ覚えている。しかし姉はまったく良くならないまま、ある日、線路に飛び込んで、バラバラになってしまった。