01 桃色の美少年 05

 桃之介の一族は、もとは優雅な華族であった。神戸異人館街の瀟洒な洋館が彼らの暮らす屋敷であった。父は松浦清之介といい、祖父の立ち上げた松浦屋という屋号の貿易を営む会社を運営していた。近江商人の三方よしの経営理念で、町の人たちからも従業員からも信用されて、代々、利益も着実に上がる、安定した商売を営んでいた。役所や商工会などからの信頼も厚く、松浦屋は神戸になくてはならない企業と言われていた。その老舗の松浦屋に目をつけたのが高利貸しの魔頭屋であった。魔頭屋は数年前に起業したばかりであったが、血も涙もない非情な手段と取り立てで俄かに大きくなってきた企業であった。主人の魔頭霜大夫は大阪あたりからの流れ者で、強欲で知られた男であった。ある日彼は考えた。「会社はそこそこ大きくなったが、まだまだこれでは不満である。魔頭屋の商売をもっと大きくするには、どこか老舗の商店を引っかけて、その財産を奪い取ることが必要であろう」そして思案を重ねて、目をつけたのが松浦屋だった。「松浦屋の専務に血汚谷吉という男がいる。これはどうもお金に卑しい男のようだ。さてではこいつを手なづけて」、と謀略を巡らせ、とうとう血汚専務を味方に引きこみ、危ない商売に踏み切らせた。そしてザブザブと不当な高利でお金を貸し付け、瞬く間に松浦屋を破産に追い込んだ。「罠にはめられた」と清之介が気づいた時にはすでに後の祭りで、警察にも検察にもまともに取り合ってもらえないまま、会社は専務に乗っ取られ、屋敷は競売にかけられて、一家は貧民街の古びた長屋へと追い出されることとなった。