01 桃色の美少年 03

「ナイフは出すまいよ。もしここでお主が短慮などおこしたなら、大願は成就せぬぞ」老人はそう言って、美少年の腕を掴む手に少し力を入れた。美少年はそれを無視するかのようにあえて平然と尋ねた。「私が大願を持つ者であると、どうしてあなたはご存知なのですか?」老人は左手でパナマ帽を目深にかむり直して言った。「ワシは八卦見の達人。お主の顔を一目見ればその綺麗な造作の内に大きな願いの秘められていること、どうして見抜けぬわけがあろう。それにどうやらその大願にワシもいささか力を貸すという運命さえも、かすかに見えておる。さてさて、それがどのようなものか。それも見てみるかのう」老人は手にさらに力を込めて、まるで美少年のその手の内から秘められた何かを探り出そうとでもするように、モゾモゾと小さく指を動かした。美少年はその心地よさに思わず「あっ」と声を上げそうになったが、かろうじてこらえた。老人はそれを見てグフフと笑ってから言った。「さてさて、これは驚きじゃ。お主の大願は復讐なのじゃな。しかも敵は一人でない。三人、四人、いや五人じゃな。父母と、そして姉の敵。うむ見えるぞ。お主の口惜しさ。さぞや無念であったろう」

 美少年は驚いた。

「ご老人、なんという眼力。驚きました。私の顔からそこまで読み解くことが出来るのですか?」

「顔だけではない。腕からも読ませてもらったよ。そしてお主、さらに大きな秘密も抱えておいでのようじゃが、まあそれはあえてここでは申さぬほうが良いであろうのう」老人はグフグフと笑ってようやく手を離した。