01 桃色の美少年 02
日の出、竹芝と二つのモノレールの駅を過ぎ、桟橋入口のモアイ像が右手に見える頃には、あたりはもう薄暗がりであった。街には街灯のあかりがともり、店々のネオンもチカチカと点灯し始めていた。美少年はなんだか急に海が見いと思った。桟橋の向こうには海がある。街路樹の間を抜けて、大きなマストのオブジェの横を通り、臨港公園の階段をのぼって、そこから海が見たいと思った。目下に広がる東京湾はもうほとんど夜だろう。左手の築地大橋、正面の晴海埠頭、右手のレインボーブリッジ、そしてその向こうのお台場。あちこちと行き交う小さな舟も、小笠原諸島に向かう大きめの船も、対岸にあるビル群も、その下を走る車も、みんな、窓に明かりがともって、さぞ綺麗なことだろう。そんな夜の風景を眺めながら口笛を吹くのも悪くない。「復讐のメロディ、か」美少年は先ほどの女子大生たちの言葉を思い出し苦笑する。違いない。そう、これは復讐のメロディ。悪人どものために狂い死にした父母の、そして姉へのレクイエム。美少年は公園の階段をのぼり、ベンチに座って口笛を吹く。目の前には東京湾。これは復讐のメロディ。と、不意に彼の手を一人の老人が掴んだ。美少年は驚き急いで手を引こうとしたが、腕を放すことが出来ない。この老人、やせ細っている割には存外握力がある。「あなたは誰ですか?」と美少年はなるべく丁寧にそう声をかけ、ポケットに忍ばせたナイフの柄を掴む。「不吉な旋律じゃのう」老人はヒゲに覆われた顔をモゴモゴと動かして言う。そして左手で古びたパナマ帽を少し持ち上げ、ギラリと光る眼で美少年を見た。