1980-1990 ニューヨーク 02

 休養中のマイルスはホントひどいもんだったね。ドラッグに明け暮れてもう廃人同然で、仲間も近寄らなくなっていてさ。トランペットに触れない日々が長く続いたってさ。そのマイルスを復活させたのは女優のシシリー・タイソンさ。彼女が献身的に看病をしたお陰で、マイルスは再びトランペットを持つことができたんだ。マイルスはそれまでもたびたび音楽的に行き詰まりを見せて、そのたびにいろんな女性に助けられてきたけれど、彼女もそんな一人で、結果的にそのマイルスの最後の奥さんとなった人さ。とにかくマイルスは病気に打ち勝って奇跡のような復活を果たし、今度はジャズとラップの融合を試みるようになったんだ。ハービー・ハンコックもニューヨークのストリートで俄かに活気づいてきたヒップホップに目をつけて、自身のサウンドに組み込んでいったんだ。こんな流れがやがてアシッドジャズへと進化していくんだ。一方、フュージョン系の大物のうちチック・コリアやジョン・スコフィールド、マイケル・ブレッカーなんかは、自分の音楽に逆に敢てアコースティックを取り入れるようになってさ。この流れはニューアコースティックとか、新フォービートジャズとか言われたんだけど、まあ、総称してコンテンポラリージャズと言われるようになったね。そういえばマイルスの奥さん、シシリー・タイソンの前はベティ・デイヴィスって、やっぱり女優だったんだけど、ジミ・ヘンドリックスと浮気していたってさ。結婚当初はずいぶんマイルスも彼女に助けられたそうだけれど、別れ話の時はボロボロの滅茶苦茶だったってさ。