01 邪教真言立川流 01-08
「何やら聞いたことのあるような、ないような、そんな話になってきたな」と尊治親王は首を傾げた。「まあ、よくある話です」と日野資朝は澄まして言ったが、なかなかあまりなさそうな気もする。「とにかく、髑髏寺の文観上人、こうした荼枳尼天の夢を見まして、以降、すべての宗旨を捨てて、真言立川流に一路邁進といった次第なのです」ようやく話が元に戻ってきたと、尊治親王はホッと胸を撫でおろした。しかしこの資朝という奴、勝手に話をさせておいてはいつまでも話し続ける奴だ。今後、話の舵取りはワシがせねばなるまい。そう考えていた矢先、再び資朝が話し出した。「さてこの真言立川流なのですが、まあ、実際には勤行に参加していただかなければ、なかなかその真髄を知ることは難しいのですが、簡単に言うなれば髑髏を拝みながらその周りで衣服を脱ぎ、女官たちと順繰りに戯れるといった儀式なのです」「女官と順繰りに戯れる?」「そうです。もうもうと護摩のたちこめる仏殿で裸の男女が入り乱れ、順繰りに交じり合うのです」「なんと」「いやいや、なかなか壮観ですぞ。そしてさらに、それだけでもなかなか経験できるものではないのですが、この文観上人の勤行にはさらに大きな目玉があるのです」「大きな目玉とな?」「さようです。そしてそれが今回親王様をお誘いしようと考えた一番の理由です」「して、その目玉とは?」「闘鶏好きの親王様ならもうお気づきでしょう? ここで賭けが行われるのですよ」資朝の目が妖しくキラリと光った。「どうです? 一度ご一緒に、伏見の髑髏寺においでになりませんか?」