04 舜見上人・鹿変化 02

 猟師、今にも矢を放ち鹿の眉間を貫こうとしたその刹那、どうしたわけか鹿の顔が偉いお坊さんに見えてきた。「はて面妖な」と猟師、いったん構えた弓を下ろし、もう少し近づいて灯りで照らし鹿の顔を覗き込むと、はたして鹿はなんとあの高僧、舜見上人に化けているではないか。「大変だ、こりゃ。鹿が和尚さんになっちまった」と慌てて山を駆け下りて、掘立小屋に駆け込んで、布団にもぐってしばらくの間、ナンマイダ、ナンマイダとお経を唱えていたが、ややあって気が落ち着いてくると、どうもおかしい気がしてくる。「いつもはボンヤリと餌を食べて射殺されるだけの鹿のくせに、なぜ今日に限って和尚さんに化けたりするのだ? まったく鹿らしくないじゃないか」頭をひねって首をひねってウンウンと唸っていたが、これは今一度、鹿の顔をしかと見ないと判断は下せぬと思い立ち、再び灯りをひとつもって、その森の中に分け入ると、鹿は相変わらずだらしなく、その場で寝そべって眠っている。「えい、ままよ」と猟師、灯りを前にゆっくりゆっくりと鹿に近づき、まじまじとその顔を覗き込んだが、その顔はやっぱり舜見上人。「これはどうしたわけだろう?」猟師はもう狩りも忘れてその場に座り、またしてもウンウンと考え込む。鹿が和尚さんになったとすると、和尚さんは鹿であるはずで、とすると鹿を捕まえるためには和尚さんを捕まえなければいけないという事で? さて、これは弱ったことになったぞ。猟師は考えに考えて、考え疲れて行き倒れ。寝ている鹿の横で自分もぐうぐう寝てしまった。