04_舜見上人・鹿変化 01

 大和と言えば今の奈良県に一人の猟師が迷い込んで、山に入ると鹿がたくさん、めいめい草を食んでいる。人間を見ても物怖じしないのは、遠く称徳天皇の時代に建立された春日大社の神様が鹿に乗ってやってきたと、そんな由来があるゆえに土地で大切にされていたからだけれど、猟師はそんなこと知ったこっちゃない。「やれ、こいつは毎日ご馳走にありつけるぞ」と片っ端から弓を引き、矢を射かけたので鹿も仰天、「こんな乱暴な人間は今まで見たことなかったぞ」と山の中でガタガタブルブル。それを知った舜見上人、「のうのう、猟師さん。大和の鹿は神様の使いじゃ。殺生はやめておいてはくれんかのう?」そう猟師に声をかけたが、猟師はまったく聞く耳持たない。「鹿はワシらの生きるための糧だ。いくら偉いお坊さんでも他人の茶碗を取っちゃいけねえ」と、知らん顔して狩り三昧。これは何を言っても無駄であるか、と途方に暮れた舜見上人、ならばいっそと鹿の皮をかぶり、山の中にうつぶせて、くだんの猟師が来るのを待った。五月下暗夜、というから五月下旬の深い闇の夜のこと。猟師はその日もいつものように灯りを持って山に入り、しばらく行くと鹿が寝ている。「おお、ここの鹿どもはまったく人間に馴れてしまって、猟師が来ても起きようともしない。よいよい、今宵もワシが一思いに射殺して、ありがたく喰らってくれようぞ。こうも人間に飼いならされて生きるくらいなら、ワシに射殺されたほうが鹿も野生の獣としての、よほど尊厳も保てようぞ」猟師はブツブツ言い訳がましく独り言を言って、キリキリと弓を引き絞った。