1960-1970 ニューヨーク 01

 音楽の中心がチラチラと揺らめく、そんな時代の中、マイルスの挑戦は続いたね。ハードバップがダンス系のホットな音楽を展開させる中、マイルスはひたすら音楽理論からジャズに踏み込み、とうとうモードジャズというものを編み出しちまったんだ。ジャズもロックも基本的にコード進行に従ってメロディを奏でてアドリブを演奏し、楽曲を作るのが普通であったのに対し、マイルスはその基本となるコードを外しちまったんだよ。ホント驚きだよ。モードにもコードらしきものがあるにはあるんだけれど、そのコードは和音ではなく単音で、一つか二つ、あるいはせいぜい三つくらいの音階のみでメロディ全体を演奏しちまうんだ。何たる革命、何たる奇抜さ、マイルスはコードの概念をジャズから外しちまったのさ。一九五九年、『カインド・オブ・ブルー』はそうして生み出されたアルバムなんだ。モードジャズの始まりさ。ビル・エヴァンスにウィントン・ケリー、キャノンボール・アダレイにジョン・コルトレーン。それまでコードに縛られて演奏していたプレイヤーたちは、ここで一気にコードから解放されちまったのさ。それはもう野放しの自由。ジャズの天才プレイヤーたちはモードの概念を駆使して、和音に縛られていた古き良き時代に別れを告げて、新しい世界に突入していったのさ。しかしモードはそれまでコードに慣れ親しんだ人たちの耳にはたいそう珍奇に聞こえたみたいで、ここらへんから徐々にジャズは難解であるというレッテルを貼られるようになったんだ。若者たちはジャズを離れて、歌って踊れるロックンロールの世界に流出していったんだ。